企業分析|2026.10.26

トラスコ中山に学ぶ在庫と即納の業務設計

トラスコ中山に学ぶ在庫と即納の業務設計

増収増益でも、現金は同じように増えない。顧客の待ち時間と資金負担を、財務5期から読み解く。

シーズコネクト合同会社 代表 橋本恒芳

売上だけでは見えない、成長の中身

「売上は伸びているのに、資金繰りには余裕がない」「見積りの返答を早くしたいが、担当者の負担が増えている」。製造業や設備業、専門商社の経営では、こうした悩みが同時に起こります。

トラスコ中山の2025年12月期は、売上高が約3,200億円、営業利益が約228億円。一方、営業キャッシュフローは約82億円でした。利益と現金の動きが違う理由を追うと、在庫・物流・受発注の設計が見えてきます。[1]

大企業の在庫規模をまねる必要はありません。持ち帰りたいのは「顧客をどこで待たせているか」と「その待ち時間を縮めるために、何へ資金を使うか」を並べて考える視点です。

1|費用削減ではなく、売上の伸びで利益率を改善

2021年12月期から2025年12月期の5期で、売上高は約41%増加しました。営業利益は約130億円から約228億円へ伸びています。以下は連結の数字を億円に換算した概数です。[1–4]

12月期20212022202320242025
売上高2,2682,4652,6822,9503,200
営業利益130147185200228
販管費率15.3%15.2%14.5%14.1%13.7%
営業CF15912214813082
投資CF−46−52−131−183−216

単位:億円(四捨五入)。販管費率=販管費÷売上高。CF=キャッシュフロー。2021年は2022年有価証券報告書の遡及適用後比較値。

売上総利益率は5期で約20.9~21.5%の範囲です。一方、販管費率は約15.3%から約13.7%へ低下しました。利益率の改善を読むうえでは、売上に対する販管費の負担が軽くなった点が重要です。

ただし、販管費の金額は約347億円から約439億円へ増えています。「コストを減らしたから利益が増えた」のではなく、費用の伸びを上回って売上が増えた姿です。

人への支出を増やしながら、費用の比率を下げる

提出会社単体の平均年間給与は約616万円から約753万円へ約22%上昇し、従業員数も1,586名から1,756名へ増加しています。人を減らすことだけが、生産性改善の方法ではありません。[1–4]

自社を見るときも、人件費の増減だけでなく、受注件数、処理時間、やり直し、粗利を合わせて確認したいところです。なお、単体の給与と連結売上は集計範囲が異なるため、そのまま割って一人当たり生産性を論じることはできません。

2|在庫は「負担」であり、即納を支える「基盤」

トラスコ中山は、工場向け販売店やEC事業者などを通じて間接資材を供給する卸売企業です。2025年12月期の売上構成は、ファクトリールートが66%、eビジネスルートが24%。販売店との関係を保ちながら、その先の利用者への供給を支えています。[5]

2025年末の在庫金額は約681億円、即納率は92.8%。品物を持つことが、すぐ届けるための基盤になります。ただし、商品があっても、確認や注文処理で止まれば顧客は待たされます。在庫・物流・受発注は、別々ではなく一つの仕組みとして読む必要があります。[5]

連結貸借対照表の商品残高は、2024年末の約554億円から2025年末の約682億円へ増加しました。期末残高を使った簡便な在庫日数も86.6日から98.2日へ延びています。単純な「在庫削減が正解」ではなく、供給力と資金負担の両面で判断する局面です。[1,2]

3|利益が出ても、投資のための現金は別に必要

2025年12月期の営業CFは約82億円。在庫の増加約128億円が、営業CFを押し下げています。投資CFは約216億円の支出で、営業CFと投資CFの合計は約134億円のマイナスでした。[1]

これは投資の失敗を意味する数字ではありません。在庫と設備へ先に資金を投じ、その差を借入で補う構造です。投資後に売上や供給力が伸び、営業CFとして資金が戻ってくるかを追う必要があります。

中小企業でも、設備を買う前に「いくら利益が増えるか」だけでなく、「いつ支払い、いつ回収するか」を並べておくことが大切です。見積り・受注が増えたとき、仕入れや外注費が先行しないか。売上成長と資金繰りを別々の会議にしないことが、実務上のポイントです。

計算注:在庫日数=期末商品残高÷年間売上原価×365。期中平均残高方式とは異なります。説明資料の在庫金額約681億円と、連結BSの商品残高約682億円は、資料・表示方法を区別しています。

4|AI導入の前に、見積りの「待ち」を分類する

2026年12月期中間期のシステム受注率は88.8%、見積り自動化率は30.5%です。両者は違う指標であり、自動化率の残り69.5%をそのまま改善可能な仕事とは読めません。対象範囲や分母、現場の処理内容を確かめる必要があります。[5]

ここからは、似た構造を持つ中小の製造業・設備業・卸売業に向けた支援仮説です。トラスコ中山の社内課題や、当社の支援実績を示すものではありません。

① まず1週間、問い合わせを分類する

品番が明確な照会、仕様不足、代替品確認、特注品、納期確認などに分けます。件数だけでなく、実作業時間と返答までの待ち時間を分けて記録します。

② 人が判断する場所を決める

価格例外、仕様適合、安全性、納期確約など、誤回答の影響が大きい判断は担当者に残します。商品情報の照合や、質問事項の整理から支援の対象を選びます。

③ 狭い範囲でAI・システムを試す

AIには問い合わせの要点整理や回答案作成を任せ、根拠となる商品情報を表示させます。価格・仕様・納期の確定と外部への送信は、人が確認する流れにします。

④ 速さだけでなく、品質と負担を測る

回答時間、差し戻し率、誤回答、担当者の確認時間を導入前後で比較します。削減時間を金額換算しても、それがそのまま現金の削減になるとは限りません。

まとめ|大きな仕組みより、止まっている一工程から

トラスコ中山の数字から学べるのは、在庫を増やすことでも、AIを入れることでもありません。顧客の待ち時間を短くする業務設計と、そのために必要な資金をつなげて考えることです。

「見積りが特定の人に集中する」「Excelとメールの間で転記が発生する」「AIをどの業務から試すべきかわからない」。こうした課題をお持ちの方は、シーズコネクト合同会社の問い合わせフォームからご相談ください。現在の業務を整理し、小さく試せる改善対象を一緒に見つけていきます。

出典・数値の読み方

本記事は2026年10月23日時点の公開情報に基づく独立した業務分析です。投資推奨を目的とせず、トラスコ中山による監修・推奨を示すものではありません。通期の財務比較は2021~2025年12月期の連結5期。2026年中間期の指標は、通期と分けて記載しています。

[1] トラスコ中山 第63期(2025年12月期)有価証券報告書

PDF 8、70~72、76頁。給与・従業員、連結BS・PL・CF。

https://pdf.irpocket.com/C9830/rJAn/oEXR/nfIW.pdf

[2] 第62期(2024年12月期)有価証券報告書

PDF 8、72~74、78頁。

https://pdf.irpocket.com/C9830/wOrc/n3jJ/zKUa.pdf

[3] 第61期(2023年12月期)有価証券報告書

PDF 8、67~69、73頁。

https://pdf.irpocket.com/C9830/PTSX/Ubls/oQe9.pdf

[4] 第60期(2022年12月期)有価証券報告書

PDF 8、59~61、65頁。2021年連結値は遡及適用後比較欄。2021年給与・従業員は当該期有報の提出会社情報。

https://pdf.irpocket.com/C9830/WYlc/yLFN/h3j4.pdf

[5] 2026年12月期(第64期)中間期 決算説明会資料(2026年8月19日)

一覧内の該当資料。4~7頁:在庫・即納・デジタル指標、17頁:ルート別実績。

https://www.trusco.co.jp/ir/library/explanation/

数値は原資料を基に億円・万円へ換算し、文中と表では丸めています。率・伸び率・在庫日数・営業CFと投資CFの合計は記事内計算です。端数により表示値の差引と一致しない場合があります。

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